誰よりも私を理解してくれる大切な家族
小さい頃から私の家では犬と暮らしていたので、犬の居る生活は当たり前の事でした。
20代前半、一人暮らしをはじめて数年が過ぎた頃、ふと交番の前を横切るとフェンスにビニール紐で繋がれた1匹のワンちゃん。何故だかとても気になり交番へ入って聞きました。
お巡りさんの話によると、誰かがフェンスに繋いでいって既に3日目。あと何日かしても飼い主が現れないようなら保健所に連れて行くしかない。交番なら世話をしてくれると思って捨てていったのではないかとの事。
「私が連れて帰っても良いですか?」お巡りさんに言いました。もし飼い主が現れたらきちんと戻すことを約束して連れて帰ることになりました。こうして私と犬の生活が始まりました。
初めての1人と1匹での生活
今まで実家で犬を飼っていたけれど、1人で飼うのは初めてでした。まあ大丈夫だろうと思っていましたが、そんな私の希望はあっという間に崩れたのです。
先ずは病院へ行って、悪いところが無いか診てもらいました。皮膚病で全身がかさぶただらけ。声帯にも問題があり声が出せない。恐らく6歳くらいだが年齢のわりに歯の状態が悪いと診断されました。先生の話では皮膚病は完治が難しいし、声が出せないことや犬の状態から見て虐待されていた可能性があるとのことでした。確かに何をしても嫌がりもしなければ喜びもしない。感情をなくしてしまったようでした。
家に戻っても私が見てるとご飯も食べず、離れたところで寝てるだけ。私が見えない所へいどうするとご飯を食べ始める。散歩もなかなか歩いてくれない。私が思ってた犬との生活とはかけ離れた始まりでした。
心を許してくれた日
一緒に暮らし始めて1年が過ぎた頃、毎日の通院で皮膚病も8ヶ月ほどで完治。散歩も嫌がらず歩くようになり、ご飯も食べるようになったけれど…撫でようとすると逃げたり、隣へ座ると離れたりとなかなか距離は縮まりません。
そんな事が続いたある日、ソファーで寝てる犬の横にそっと座ってみました。私に気付いて顔を上げ、私の目を見ました。「ああ、また逃げちゃうかな」と思ったとき、私の足に顔を乗せ、また眠りはじめました。とても嬉しくて涙が溢れました。1年かかってやっと心が通い合った瞬間でした。それからというもの、私の行くところには必ず付いて来て、寝る時も私のベッドで眠るようになりました。
私の言葉を理解しようと目を見つめ、私の様子がいつもと違うときにはそっと寄り添い、たまにわがままも言ってくれるようになりました。私と犬の間には絶対に揺るがない信頼関係がありました。自分が必要とされている、自分を信頼してくれていると感じる事は、私に自信を持たせてくれました。
これからもずっと一緒に
初めて一緒に暮らした犬は、引き取ってから7年後病気で他界しました。仕事が忙しい時期で休みも取れなかったのですが、たまたま取れた連休の初日に亡くなりました。仕事中に逝ってしまったら私が悲しむと思ったのでしょう。1日中一緒に居られるその日まで頑張ってくれたのです。最後まで私が悲しまないように、私があとで後悔しないようにと、私のことを1番に考えて頑張ってくれたのだと思います。
一緒に暮らしていた時から亡くなったあとまで本当にたくさんの事を教えてくれました。信頼する事、される事。無償の愛をささげること、貰うこと。居なくなって寂しく悲しい気持ちももちろんありますが、一緒に暮らした7年間がとても幸せだったので、次の子を迎える事もできました。
犬たちの生涯は短いです。その短い一生をより幸せなものにしてあげたいと思います。この飼い主で良かったと、また生まれてくる時はこの飼い主と暮らしたいと思ってもらえるよう私も精一杯の愛情で、幸せな生涯を送れるよう手助けできれば良いなと思います。
大切な家族
犬を飼うという事は簡単な事ではありません。お金もかかるし言葉の通じない相手なので大変な事もたくさんあります。命を預かるという責任も大きいです。
疲れたから、大変だからといって投げ出す訳にはいかないのです。けれどそれ以上に彼らはたくさんの大切な事を私達に教えてくれます。
私の大好きな言葉があります。
「たまたま犬に生まれただけの家族」
どこかで見た言葉なのか、それとも誰かから聞いた言葉なのかも忘れてしましましたが、初めてこの言葉を目にした時に涙が溢れて温かい気持ちになった事だけは覚えています。
本当にそうなんです。たまたま犬に生まれてきただけの大切な家族。
大切な家族との時間がこれから先の人生を今よりもっと明るいものにしてくれるのかもしれません。
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