豊かな色彩に憧れて―油絵具の魅力
初めて『絵画』というものの存在を知ったのは小学校5年生の時でした。
宿題の調べものをしていた時に手に取った百科事典で、偶然『聖母』のページを開いたのです。 その時目に飛び込んできたのはラファエロという画家の聖母子像。 こんな素敵な絵はどうやったら描けるのだろう―それまで、画材というと学校教材の水彩絵の具くらいしか知らなかった田舎の子供にとって、油絵具などというものは未知の存在だったのでした。
田舎育ちの私は、その後進んだ中学に美術部は無く、ようやく憧れの美術部に入部できたのは高校生になってからの事でした。 始めてみる絵の具で絵を描く先輩たちー5年もの憧れの時を経て、私がようやく油絵具に出会った瞬間でした。
経験者のアドバイスは貴重です
簡単なデッサンの指導の後、まずは校内の展覧会に出す作品を描く様に指示されました。 初心者は技術上達のためにと、静物画を描くのが常です。
私も、テーブルにワインの瓶や作り物の果物(本物だと傷んでしまうので、美術用のフェイクがあるのです)を置いたものを描くことにしました。 先輩や先生から、さまざまなアドバイスをもらいました。
色は、パレットで混ぜるよりもキャンバスの上で混ぜたほうがきれいな色彩が出ること。『真っ白』という色は存在しない事など。 瓶に光が当たった部分は一件真っ白に見えたのですが、そのアドバイスを受けてよく観察すると、確かに真っ白ではありません。 瓶の色が薄くなっていっています。
やはり慣れている人にアドバイスを貰える環境というのは大変ありがたいものでした。
好きな事が上達するという事は、自信につながります
数枚の静物画を経て、次は自由作品を描くことになりました。大きさもそれまではノートを広げたのより少し大きいくらいのサイズだったのですが、今度は畳一枚分ほどの大きさです。 この真っ白いキャンバスに自分の世界を広げて行けるのかと思うとドキドキしました。
そして、気付いた事が一つ。油絵具が扱えるようになると、他の画材の扱いも上手くなるという事です。
高校では美術部での活動の他に、授業での美術もありました。授業での美術は中学まで使っていた不透明水彩絵の具です。しかし授業での静物画も同級生たちとは比べ物にならない出来でした。どのくらいの力加減なら紙を破くことなく絵の具を乗せられるか。また、色彩の扱い方などはやはり経験を積んだことが大きかったと思います。
クラスメイト達からの羨望の眼差しには少し照れました。が、幼いころから病気がちで内向的だった私にとって、初めて自分に自信を持つことが出来た出来事でした。また、絵を描くという表現を繰り返したことも、自信につながっていったように思います。
またキャンバスで描きたい
実は高校を卒業してからは、キャンバスで描くことは無くなりました。キャンバスというのは巨大なロールの形態で売っていて、それを必要に応じて切って使うもの。個人が趣味で描くにはちょっと置き場所に困る上に高価なものなのです。(高校時代は学校がキャンバスを購入してくれたのですが)また、油絵具は準備が大変な上に油のにおいが凄いため、自宅で描くと家族に迷惑がられてしまいます。
ですから、卒業後は主にアクリル絵の具という画材をつかっていました。これは水彩絵の具のように水で溶いて使えるのですが、乾くと耐水性となるため油絵具と似た表現が出来るのです。(事実、最近はプロの画家もアクリル絵の具を使用して制作している例をよく見かけます。)
使う紙は、イラストレーションボードというもので、厚紙のようなもの。表地はケント紙が一般的ですが、中には油絵具用のキャンバスが貼ってあるものもあるので、それを使用しています。でも本当はあの、指ではじくとポン・・・と小気味よい音を立てる本物の張キャンバスに粘着力のある油絵具を乗せる感触を懐かしく思います。
仕事に追われる日々ですが、サークルか絵画教室に入ればまた油絵具で描くことも可能かと思います。いつかまた、キャンバスで描きたいと思っています。
油絵具の魅力は色彩の豊かさ
油絵具の魅力は何かと問われたら、他の画材では出せない豊かな色彩だと答えます。
油絵具の特性として、完全に乾くのに3日かかるというのがあります。 この渇くまでにかかる時間の長さが良いのです。絵の具の色彩というのはパレットで混ぜるよりも紙の上で混ぜたほうがずっとキレイに映えるもの。 ですから、キャンバスに乗せた絵の具が乾燥する前に次の色を乗せて色彩の層を作りたいもの。 そして絵の具の乾燥具合によって、同じ色をキャンバス上で混ぜても出てくる色彩は微妙に違ってきます。
この豊かな色彩こそが、油絵具の最大の魅力ではないかと思っています。
油絵具というのは、なかなか高価でハードルの高い画材かと思います。 ですから、絵画教室に入ったり、同じ仲間でサークルを組んで公民館などを借りるなどをする事をお勧めします。 高いロールキャンバスも、皆でお金を出し合って買えばそれほど負担にはならないでしょう。
あの、豊かな色彩の世界をぜひ味わって欲しいと思います。
油絵の体験談
豊かな色彩に憧れて―油絵具の魅力
(茨城県 40代 女性 )
初めて『絵画』というものの存在を知ったのは小学校5年生の時でした。 宿題の調べものをしていた時に手に取った ...